じつはこれは、格差社会論の必読書のひとつなのでは?
★★★★☆
2008-11-23
ヨーロッパでは、日本よりも10年ぐらい早く、若者の(貧困を伴う)雇用問題が顕在化していました。そして社会政策(つまり実践)の領域でも、社会科学(つまり研究)の領域でも、議論の軸となる概念は「貧困」から「社会的排除」へと移っていったらしい。
「貧困」というのは、人々の所得水準のみを問題にする一元的な概念です。これに対し「社会的排除」というのは、経済的のみならず「社会的」「政治的」「文化的」な資源の有無をも問題にする点で“多元的”です。また、人々がそれらの資源を喪失していく「プロセス」に注目する点で、“動的”な概念でもあります。
本書131頁の、以下のような定義が一番分かりやすいでしょうか。
「『社会的排除』とは、人びとが社会に参加することを可能ならしめる様々な条件(具体的には、雇用、住居、諸制度へのアクセス、文化資本、社会的ネットワークなど)を前提としつつ、それらの条件の欠如が人生の早期から蓄積することによって、それらの人びとの社会参加が阻害されていく過程を指す。」
ちなみに、「社会的排除」の対概念は「社会的包摂」です。
日本のアカデミズムも、ヨーロッパの経験を追いかけるようにして「貧困」から「社会的排除」へと議論を進めつつあるようで、その最先端近くに位置している(っぽい)のが本書です。9人の研究者が「社会的排除」を論じている論文集で、昨秋に出版されたばかりだから内容はけっこう新鮮ですね。
前半では、ヨーロッパの政策と研究を紹介することで、「社会的排除」の概念を用いて不安定雇用や貧困の問題を分析するための枠組みを整理している。そして後半では、日本における「社会的排除」の現状を実証的に把握しようと試みている。
この後半の議論は、日本におけるこの種の研究がまだ始まったばかりであることもあって少々荒削りですが、たとえば「社会的排除」を指標化して統計を取ってみると「所得の低さ」と「社会的排除の度合い」が相関しないことが明らかになるなど、興味深い知見も含まれています。
「社会的排除」を正面からテーマ化した本がまだ少ないので、本書は今の時点では、日本の格差社会問題、若者の雇用問題を論じる上での必読書のひとつだと個人的には思う。
とりわけ重要だと思ったのは、ヨーロッパにおいて「社会的排除」をめぐる理論が洗練されてきた歴史を概括した第2章、日本における社会的排除の指標化(誰がどれぐらい「排除」されているのかを数値で表す)と計量分析を試みた第5章、そして日本の「格差問題」や「貧困問題」に関する近年の研究史をまとめた「補論」です。
3000円以上と高価で、シリーズ3巻までそろえると1万円近くになるが、買っておいて損はないでしょう。

